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【名所案内】沖縄・久高島:神話と歴史が交差する「神の島」を読み解く:久高島フィールドワーク完全ガイド

This entry is part 2 of 2 in the series 名所案内|フィールドの魅力

名所案内|フィールドの魅力

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【名所案内】沖縄・久高島:神話と歴史が交差する「神の島」を読み解く:久高島フィールドワーク完全ガイド

神話と歴史が交差する「神の島」を読み解く:久高島フィールドワーク完全ガイド

南城市

沖縄本島の南東、知念半島から約5キロの海上に浮かぶ久高島。周囲約8キロ、人口200人弱のこの小さな島は、琉球開闢(かいびゃく)の祖神アマミキヨが降臨したとされる「神の島」として広く知られている。しかし、フィールドワークの対象としての久高島は、単なる「神秘的なパワースポット」という表面的な理解に留まるべきではない。この島は、琉球王国の国家祭祀の舞台であり、独自の土地制度や家族観、そして「女が男を守る」という強烈なジェンダー規範が複雑に絡み合う、極めて動的な社会構造を持った生きたテキストなのだ。

本記事では、久高島の文化と社会構造の核心に迫るためのフィールドワークの視点を提供する。入り口となるのは、島を知り尽くした住民によるガイドツアーである。そこから空間の背後にある歴史を遡り、さらには過疎化という現代の課題と向き合う島の未来へと視点を広げていこう。

第一章:住民ガイドツアーを入口に〜空間に刻まれた「二重主権」〜

フィールドワークの第一歩として強く推奨したいのが、島の住民や認定ガイドによる「Dコース(御殿拝み・アマミキヨ・久高島行幸コース)」と呼ばれる約3時間の総合ツアーである。このツアーは、単なる景勝地巡りではなく、久高島の宇宙観と歴史的構造を体感できる「総体的社会事実」の観察ルートとなっている。

久高島の島民によるガイドツアー:料金は2時間で7500円(2名)

https://kudakajimaguide.jimdofree.com

島の最北端に位置するカベール岬(ハビャーン)」は、祖神アマミキヨが上陸したとされる聖地であり、天や海からの「垂直的」な神の到来を示す場所だ。そこから南下して訪れるイシキ浜」は、海の彼方の異界「ニライカナイ」から五穀の種子が入った壺が流れ着いたとされる場所であり、マレビト(来訪神)信仰と農耕の起源が結びついている。

Google Maps

そして、集落内に入ると様相は「歴史と政治」へと移行する。ここは琉球国王が自ら渡海して参拝した「久高島行幸」の舞台である。ここで注目すべきは、「外間(ホカマ)」と「久高(クダカ)」という二大宗家による「二重主権」の構造である。外間家は定住や農耕の起源に関わり、久高家は王府との結びつきが強く対外的な権威を象徴する。祭祀を実質的に運営するのは、これら二大宗家から選出された男女のペアからなる「8人シンカ」と呼ばれる集団指導体制であった。

さらに、島最古の家柄である「大里家(ウプラトゥー)」は、第一尚氏最後の王・尚徳王と島の神女クニチャサのロマンスの舞台として知られる。王がこの島に滞在している間に首里でクーデターが起き、王統が交代したという歴史は、中心(首里)の権力が周縁(久高島)の霊的な力によって解体されたという動的な政治力学を示している。ツアーを通じてこれらの空間を巡ることで、久高島が「神話」と「王権」の結節点であったことが見えてくる。

南城市(有形文化財)

第二章:過去への探求①〜流動的な「家」と「地割制」の呪縛〜

空間の構造を把握した後は、久高島の社会構造の深層へと足を踏み入れてみよう。沖縄本島では一般的に、父系血縁を絶対視する「門中(ムンチュウ)」という強固な親族集団と、仏壇(トートーメー)を中心とした厳格な祖先崇拝が存在する。しかし、久高島にその常識は通用しない。

久高島の社会の最大の特質は、「家」が極めて流動的で非実体的なものであるという点にある。その背景には、琉球王国時代から戦前まで存続した地割制(じわりせい)」という土地総有制度がある。地割制とは、村が土地を一括管理し、一定年齢に達した住民(主に男子)に均等に配分し、老齢になれば返還させるという制度である。

つまり、久高島の一般の島民には、代々世襲して守るべき「家産(土地)」が存在しなかったのである。土地への固着がないため、家系の連続性に対する執着も薄く、物理的な「屋敷」と霊的な「家筋(イェースジ)」が一致しないことが頻繁に生じた。

南城市(映像ライブラリ)

さらに、久高島の伝統的な観念においては、死者の霊(祖霊)は穢れを伴う恐るべき存在であり、ニライカナイから訪れる清浄な「カミ」とは対立する概念であった。そのため、近年まで家の中に立派な仏壇を設ける習慣がなく、「死んだら終わり」という感覚が強かった。系譜に混乱が生じた際には、「ユタ」と呼ばれる民間霊媒師が介入し、神意(ハンジ)によって系譜を再編成(リシャッフル)した。久高島の「門中」は、整然とした父系血縁集団というよりは、「ムトゥ神(元神)」を祀るための緩やかな連合体に過ぎず、村落全体の公的祭祀には直接関与しなかったのである。

第三章:過去への探求②〜「女が男を守る」オナリ神信仰とイザイホー〜

流動的な「家」に代わって、久高島の社会を強固に統合していたのが、ジェンダーに基づく厳格な役割分担である。

久高島の格言に「男は海人(ウミンチュ)、女は神人(カミンチュ)」というものがある。かつての男たちは、琉球王府の公用船(唐船や薩摩への楷船)の乗組員として、あるいは遠洋漁業の漁師として、危険な外海へと漕ぎ出していった。彼らは経済的資源をもたらす存在であった。一方、女たちは島に留まり、農業を営むとともに、神となって海上の男たちの安全を霊的に守護する役割を担った。姉妹が兄弟を守護するという「オナリ神(姉妹神)信仰」の究極の体現である。

この霊的守護の力を女性たちに付与するシステムが、12年に一度、午(うま)の年に行われていた秘祭「イザイホー」である。久高島で生まれ育ち、島の男性と結婚した30歳から41歳の女性は、この通過儀礼を経て「ナンチュ」と呼ばれる新参の神女となり、島の祭祀組織に組み込まれる

儀礼の核心は、聖域である神アシャギに架けられた「七つ橋」を渡る行為である。不貞を働いた者は橋から落ちるとされ、女性の道徳的純潔性が共同体の霊的安寧と直結すると信じられていた。イザイホーを経た女性は、年齢とともに「ヤジク」「ウンサク」「タムトゥ」へと階梯を昇り、70歳で退任(テーヤク)するまで、年間20以上もある島の神行事を支え続けた

映画『イザイホー』予告編

また、このイザイホーは単なる土着の祭りではなく、琉球王国時代には、聞得大君(王国の最高神女)に仕える神女としての認証を国王から受ける「辞令交付式」としての国家的な性格も帯びていた。

第四章:現在から未来へ〜過疎化の波と「土地憲章」の祈り〜

そして視点は現在、そして未来へと向かう。久高島の根幹を成していたイザイホーは、過疎化により対象となる女性がいなくなったため、1978年を最後に中断している。神女組織の高齢化とシステムの停止は、島社会にとって深刻な危機である。

しかし、祈りの精神が途絶えたわけではない。現在でも、毎朝家族のためにお茶を供え、旧暦の1日と15日には香炉に線香を立てて祈る主婦たちの姿がある。高齢者福祉の現場でも、それは顕著である。要介護状態になり島外の施設に入所せざるを得なくなった高齢者が「死んだらどうせ島に戻るのに、死ぬためだけに住み慣れた島から出るなんておかしい」と語る「スピリチュアル・ペイン」に対し、島内では「ふばの里」というミニデイサービスが運営され、島で最期まで暮らし続けるための努力が続けられている。生きがいとしての祈りや神事が、高齢者のQOL(生活の質)を支えているのだ。

さらに注目すべきは、1988年に島民の手によって制定された「久高島土地憲章」である。リゾート開発の波が押し寄せた際、島民は土地の私有化による乱開発を防ぐため、琉球王国時代からの「総有(字による共同管理)」の理念を明文化したのである。

「久高島の土地は、固有地などの一部を除いて、従来字久高の総有に属し…(中略)…字はこの慣行を基本的に維持しつつ、良好な自然環境や集落景観の保持と、土地の公正かつ適切な利用、管理との両立を目指す。」

家や門中の系譜が時代とともに揺れ動こうとも、「土地は神からの預かりものであり、みんなのものである」という基盤だけは死守しようとするこの憲章は、久高島が未来へ向けて共同体を維持するための強い意志の表れである。

結び

久高島でのフィールドワークは、美しい海や神秘的な伝説を消費する観光であってはならない。住民の語り(ツアー)を入り口に、カベール岬や大里家といった空間に身を置き、そこから「地割制」という特異な経済基盤、「イザイホー」という緻密なジェンダー秩序、そして国家権力(琉球王府)とのダイナミックな政治的関係を読み解く知的探求の旅である。

沖縄本島が本土化や「門中化」の波に飲み込まれていく中で、久高島は古層の信仰形態を基盤としつつも、ユタの介入や土地憲章の制定に見られるように、常に外圧と向き合い、自らを再編成しながら適応してきた「動的」な社会である。

神職者が激減し、かつての祭祀の完全な再現が不可能となった現代において、久高島は大きな転換点にある。しかし、土地を共有し、日々の生活の中で祈りを紡ぐ彼らの精神は、近代的な「個人」や「所有」の概念が行き詰まりを見せる現代社会に対して、私たちが「共同体とは何か」「豊かさとは何か」を問い直すための、根源的で普遍的な示唆を与え続けてくれるはずである。

👉 久高島 観光交流サイト「久高のシマ時間」:島民ツアーや連絡船・高速船(一日3往復)などの情報

https://kudaka-island.com

カリスマに依存しない。平凡な人をリーダーにする沖縄の「神のシステム」とは?

組織のイノベーション(攻め)とガバナンス(守り)が衝突する。M&Aやシステム導入で現場が反発する。優秀なリーダーが抜けると組織が回らない……。

現代の企業が抱えるこうした病理に対する処方箋は、実は沖縄・久高島が数百年にわたり維持してきた「祭祀のシステム」に隠されていました。

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なぜ、国王は最高の聖地(久高島)へ「行かなく」なったのか?

琉球王国は、ある時期を境に聖地への直接巡礼をやめ、対岸からの「遥拝」へと切り替えました。それは信仰の形骸化ではなく、国家存続のための高度な「編集」作業でした。

琉球王国が直面した「外部環境(中国・日本)の変化」と「内部のアイデンティティ(信仰)の維持」。 この葛藤は、M&Aや組織変更に揺れる現代の企業人の悩みと驚くほど重なります。

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名所案内|フィールドの魅力

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投稿者

  • 文化人類学者|社会人類学・アクターネットワーク理論

    • 早稲田大学大学院博士課程に在籍中、インドネシアとシンガポールへの留学を経て、文化・社会人類学の研究手法を体得。現在もフィールドワークを重視する研究者として活動。
    • 研究テーマは、東南アジアの国際移民研究から、BBCやNHKのドキュメンタリー番組制作過程の民族誌的研究、沖縄・韓国・マレーシアの民俗服飾の比較研究へと展開。近年は、伝統染織「読谷山花織」を事例に、市場的価値と社会的価値が織りなすネットワークの中で、いかに持続可能な発展が実現されるのかを追究している。
    • 特筆すべきは、コロナ禍でキャリアコンサルタント国家資格を取得した点。人類学者としての視座とキャリア支援の実践知を統合し、沖縄の伝統産業における技能継承や後継者育成の研究にその知見を活かしている。学問と社会をつなぐ姿勢は、リベラーツの理念にも通底する。
    • 主な著書:
      『シンガポール:多文化社会を目指す都市国家』
      『戦後アジアにおける日本人団体』
      『イスラーム事典』

     

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