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講座『AI時代のナラティブ・キャリア論』 〜「変化」を「物語」へ編み直す3つの視座〜

ジョブ・クラフティング|キャリア構築のヒント

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講座『AI時代のナラティブ・キャリア論』 〜「変化」を「物語」へ編み直す3つの視座〜

第1回:【視座】キャリアの「地図」を広げる
〜個人・空間・時間〜

「AI時代のナラティブ・キャリア論 〜『変化』を『物語』へ編み直す3つの視座〜」の全3回の体験講座は、『The Routledge Companion to Career Studies』(以下、『Routledge Companion』)の「社会年代学的枠組み(Social Chronology Framework)」を理論的基盤とし、現代的なキャリアの課題である「AIアイデンティティ脅威」や「認知的クラフティング」の知見を統合したセルフワークを通じて学ぶキャリア理論の講座です。

1. イントロダクション:不確実性の海を
航海するための「理論的羅針盤」

現代のキャリア環境は、人工知能(AI)の急速な台頭、雇用形態の流動化、そして人生100年時代という時間軸の延伸により、かつてないほどの不確実性に覆われている。この状況下において、視聴者であるビジネスパーソンたちは、単なるスキルアップのノウハウ(How-to)ではなく、自身の置かれた状況を俯瞰し、意味づけを行うための深い洞察(Why & What)を求めている。

本研究の目的は、Gunz, H., Mayrhofer, W., & Lazarova, M. (2020)『The Routledge Companion to Career Studies』および関連する最新のAIアイデンティティ研究の論文を解題し、それらを日本の社会人が人生を豊かにするための「思考ツール(Thinking Tools)」として再構成することにある。特に、Gunz, Mayrhofer, & Lazarova による「社会年代学的枠組み」、Schneidhofer, Hofbauer, & Tatli による「構造と主体性の二重性」、そしてMirbabaie et al. による「AIアイデンティティ脅威」の3つの理論的支柱を統合し、AI時代におけるキャリア自律のナラティブ(物語)を構築するための強固なエビデンスベースのキャリア理論のセルフワークを提供する。

【人物紹介】キャリア研究の「地図」を描く建築家たち

1. Hugh Gunz(ヒュー・ガンツ、1945年 – 2024年)

University of Toronto

• トロント大学(カナダ)名誉教授。管理職や専門職のキャリア、専門職のマネジメントに関する研究を専門としていました。個人のキャリアだけでなく、組織や社会の文脈がキャリアに与える影響に焦点を当てていました。

 著書に『Careers and Corporate Cultures: Managerial Mobility in Large Corporations』(キャリアと企業文化)があり、また『Handbook of Career Studies』(キャリア研究ハンドブック)の共同編集者。

2. Wolfgang Mayrhofer(ヴォルフガング・マイアーホーファー、1858年-)

WU Vienna

• ウィーン経済大学(オーストリア)教授。比較国際人的資源管理やシステム理論が専門。キャリアが国や社会システムの違いによってどう異なるかというマクロな視点を持っています。

二人は、キャリア研究の包括的なハンドブックである 『The Routledge Companion to Career Studies』 の編集者であり、現代キャリア論の最重要人物です。


2. キャリアの多次元的解剖
(The Social Chronology Framework)

2.1 理論的背景と著者解剖:キャリア研究の分断を超えて

キャリア研究の分野は、長きにわたり「心理学的アプローチ」と「社会学的アプローチ」の間の深い溝に直面してきた。心理学は個人の特性、選択、発達(Ontic)に焦点を当て、社会学は組織構造、労働市場、社会階級(Spatial)に焦点を当てる傾向があった。この分断は、個人のキャリアにおける悩みを「個人の努力不足」と捉えるか、「社会システムの欠陥」と捉えるかという二項対立を生み出してきた

Hugh Gunz(トロント大学)、Wolfgang Mayrhofer(ウィーン経済経営大学)、Mila Lazarova(サイモンフレーザー大学)らによる2020年の論考『The concept of career and the field(s) of career studies』は、この分断を統合するための野心的な試みである。彼らは、キャリアを単なる「職務の連なり」としてではなく、時間と空間の中で個人が経験する動的なプロセスとして再定義した。

彼らが提唱する「社会年代学的枠組み(Social Chronology Framework)」は、以下の3つの次元が複雑に絡み合う「場」としてキャリアを捉える視座を提供する。これは、視聴者が自身のキャリアの現状を診断するための「MRIスキャナー」のような役割を果たす思考ツールである。

2.2 核心的概念:キャリアを構成する3つの次元

Gunzらが提示するモデルは、キャリアを「個人(Ontic)」「空間(Spatial)」「時間(Temporal)」の3次元空間における運動として記述する。脚本制作においては、この3つの用語を視聴者の日常言語に翻訳しつつ、その学術的な深みを損なわないような解説が求められる。

2.2.1 個人(Ontic Dimension):存在論的基盤

「Ontic」という用語は哲学の「存在論(Ontology)」に由来し、キャリアの主体である「私という存在」そのものを指す。

  • 定義: 個人の内部にある属性の総体。スキル、知識、性格特性、価値観、動機、身体性、そしてアイデンティティ(自己概念)が含まれる。
  • 従来の誤解: キャリア論において、Onticな要素はしばしば「静的な資源(Human Capital)」として扱われてきた。つまり、「英語力がある」「プログラミングができる」といった所有物のリストである。
  • 本理論の視点: Gunzらは、Onticな要素が環境(Spatial)との相互作用によって絶えず変化する「流動的な実体」であると捉える。例えば、AIの登場によって「計算能力」というスキルの価値が暴落するように、個人の属性の価値は絶対的なものではなく、環境との関係性の中で相対的に決まる。
  • 思考ツールとしての意義: 視聴者に対し、「あなたの『強み』は、あなたの中にある固定的な宝物ではなく、環境が変われば再定義が必要な『機能』である」という視点を提供する。これは、自己分析を「自分探しの旅(内面への沈潜)」から「環境適応の実験(外面との照合)」へと転換させる。

2.2.2 空間(Spatial Dimension):文脈としての舞台

キャリアは真空の中で行われるものではない。常に特定の文脈(Context)の中で展開する。

  • 定義: キャリアが演じられる物理的、社会的、制度的な「場」。組織、産業、労働市場、地域社会、国家、そしてデジタルの世界が含まれる。
  • AI時代の特質: 現代において最も重要なSpatialな変化は、物理的なオフィスからデジタル空間、そしてAIアルゴリズムが支配するサイバー空間への拡張である。AIは単なるツールではなく、労働が行われる「環境そのもの」を変容させる(例:Uberのドライバーにとって、上司は人間ではなくアルゴリズムである)。
  • 社会学的視座: 空間には「重力」がある。ブルデューの言う「界(Field)」のように、特定の業界や組織には独自のルール、慣習、権力構造が存在し、個人のキャリア移動を制約したり促進したりする。
  • 思考ツールとしての意義: 「なぜ私は評価されないのか?」という問いに対し、「空間のルール(ゲームの規則)が変わったからではないか?」という仮説を提示する。視聴者は、自身の能力不足を嘆く前に、自分が立っている「舞台」の傾きや照明の変化を観察する視座を得る 1

2.2.3 時間(Temporal Dimension):不可逆な流れ

時間はキャリアの最も本質的な要素でありながら、最も見落とされがちな次元である。

  • 定義: キャリアの展開を規定する時間的枠組み。これには以下の異なる「時計」が含まれる。
    1. 生物学的時間: 年齢、加齢による体力の変化。
    2. 経歴的時間: 勤続年数、経験年数。
    3. 歴史的時間: 景気循環、技術革新のサイクル、世代(ミレニアル世代、Z世代など)。
  • 最新の研究動向: 伝統的なキャリア論(スーパーのライフステージ論など)は、年齢とともに直線的に上昇するキャリアを想定していた。しかし、現代の「時間」は断続的であり、加速している。技術の陳腐化サイクルが短くなる中で、30代の「ベテラン」が40代で「初心者」に戻るような「時間の逆流(リスキリング)」が常態化している。
  • 思考ツールとしての意義: 「もう遅すぎるのではないか?」という不安に対し、「キャリアの時間は直線(Linear)ではなく、螺旋(Spiral)である」という視点を提供する。過去の蓄積(過去形)と未来の可能性(未来形)を、現在の行動(現在進行形)において統合する視座である。

2.3 最新の研究と再評価:3次元の相互作用とAI

この3つの次元を分離して考えることは分析の第一歩に過ぎない。
真の洞察は、これらの相互作用(Interaction)にこそ宿る。

次元間の相互作用AI時代における現象(具体例)示唆(Insight)
Ontic × Spatial適応不全(Misfit): かつて称賛された「職人的こだわり(Ontic)」が、AIによる効率化が求められる職場(Spatial)では「非効率」と見なされる。苦しみの原因は「あなた」でも「会社」でもなく、両者の「ズレ」にある。ズレを解消するには、自分が変わるか、場所を変えるかしかない。
Ontic × Temporalアイデンティティの熟成と硬直: 長年の経験(Temporal)が専門性(Ontic)を形成するが、同時に新しい技術を受け入れられない「硬直化」も招く。「経験」は資産にもなるが、変化を拒む足枷にもなる。過去の成功体験(時間)が、現在の自分(個人)を縛っていないか?
Spatial × Temporal構造的変化の加速: 業界の技術サイクル(Temporal)が早まり、組織構造(Spatial)が頻繁に再編される。会社の再編やルールの変更は、あなたへの攻撃ではなく、時間の流れに対する組織の生存反応である。

漠然とした「将来の不安」という巨大な敵を、3つの要素に分解・隔離することで、初めて「対処可能な課題」として認識できるようになる 。


3. 構造と主体性のダンス
(The Agency-Structure Debate)

3.1 学術的論争の核心:決定論 vs 自由意志論

社会学における最大のテーマの一つである「構造(Structure)と主体性(Agency)」の問題は、キャリア研究においても中心的な論点である。Schneidhofer, Hofbauer, & Tatli (2020)は、この古典的な論争を現代のキャリアの文脈で再評価している。

  • 構造(Structure): 社会制度、経済システム、組織のヒエラルキー、技術的インフラ(AI)、性別や人種によるステレオタイプなど、個人の外部に存在し、行動を制約・規定する力。
  • 主体性(Agency): 個人の自由意志、選択能力、意図的な行動、現状を変革しようとする力。

3.1.1 3つの理論的アプローチ

Schneidhoferらは、これまでのキャリア研究を以下の3つに分類し、批判的に検討している。

  1. 主体性偏重(Agency-biased):
    • 特徴: 「キャリアは個人の努力と選択の結果である」とする立場。自己啓発書や多くのビジネス書、そして新自由主義的なキャリア観(Boundaryless Career)がこれに該当する。
    • 限界: 成功者は自身の努力を誇るが、失敗者は自己責任論に押しつぶされる。貧困、差別、不況、そしてAIによる構造的な職の消失といった「個人の力ではどうにもならない外力」を軽視している。
  2. 構造偏重(Structure-biased):
    • 特徴: 「キャリアは社会階級や教育、組織の要請によって決定される」とする立場。マルクス主義的アプローチや一部の組織論がこれに近い。
    • 限界: 人間を受動的な「文化的操り人形(Cultural Dopes)」として描き、個人の創造性や例外的な成功、変革の可能性を説明できない。
  3. 二重性アプローチ(Duality/Dialectical Approach):
    • 特徴: 構造と主体性は対立するものではなく、相互に依存し合う関係(Duality)であるとする立場。アンソニー・ギデンズの「構造化理論(Structuration Theory)」やピエール・ブルデューの「ハビトゥス(Habitus)」概念に基づく。
    • 本講義の立場: 構造は主体を制約する(Constrain)だけでなく、行動のリソースを提供し、可能にする(Enable)。

3.2 AI時代における「ダンス」のメタファー

この難解な社会学理論を直感的に伝えるために、「ダンス」というメタファーが極めて有効である。

  • 構造=音楽と舞台: 音楽(時代のトレンド、AI技術の進化)や舞台の広さ(労働市場、法規制)は、踊り手(個人)がコントロールすることはできない。音楽を無視して踊れば、リズムが狂い、観客(市場)から見放される。
  • 主体性=即興と表現: しかし、踊り手は完全に音楽の奴隷ではない。同じ音楽に乗せても、どのようなステップを踏むか、どのような感情を込めるか(意味づけ)は、踊り手の自由(Agency)である。熟練した踊り手は、音楽の制約を利用して、独自の表現を生み出す。

3.2.1 AIという「強力な構造」との対峙

現代において、AIは最も強力な「構造的要因」として登場している。Acemoglu & Restrepo (2018)の研究が示唆するように、AIは労働を「代替(Substitution)」する力と「補完(Complementarity)」する力の両方を持つ

  • 受動的な態度(主体性の放棄): 「AIに仕事を奪われる」と嘆くのは、構造に圧倒され、踊ることをやめてしまう状態である。これは構造決定論的な敗北主義につながる。
  • 能動的な態度(主体性の発揮): 「AIを使ってどう踊るか」を考えるのが主体性の発揮である。Schneidhoferらの議論を応用すれば、「構造(AI)は、新しい主体性を発揮するための踏み台(Resource)である」と捉え直すことができる。

3.3 ファクトと解釈:選択のパラドックス

  • Fact: 多くの研究において、キャリアの成功(年収や地位)における「構造的要因(出身階層、業界の成長率など)」の寄与率は無視できないほど大きい。完全な「自作のキャリア(Self-made Career)」は統計的には幻想に近い。
  • Interpretation: しかし、「完全に自由ではない」ことは「無力である」ことを意味しない。Schneidhoferらが強調するのは、制約の中での「相対的な自由(Relative Autonomy)」の行使である。30代~50代の社会人にとって、重要なのは「全ての選択肢を持つこと」ではなく、「与えられたカード(構造的制約)の中で、最善の手(主体的な選択)を切ること」である。このリアリズムこそが、大人のキャリア論には不可欠である。

4. AIアイデンティティ脅威と認知的クラフティング
(Identity Threat & Sensemaking)

4.1 核心的理解:技術的脅威の本質は「アイデンティティ」にある

Mirbabaie, Brünker, Möllmann, & Stieglitz (2022)の研究『The rise of artificial intelligence – understanding the AI identity threat at the workplace』は、AI導入に対する従業員の心理的抵抗を「アイデンティティ」の観点から解明した画期的な論文である。彼らは、AIに対する恐怖が単なる「雇用不安(クビになることへの恐れ)」以上のものであることを明らかにした。

4.1.1 AIアイデンティティ脅威(AI Identity Threat)のメカニズム

人は仕事を通じて、「私は専門家である」「私は頼られる上司である」といった職業的アイデンティティを形成し、自尊心を維持している。AIの導入は、このアイデンティティの根幹を揺るがす可能性がある。

  • 独自性の喪失(Loss of Uniqueness): 「自分の熟練スキルは、AIにとっては数秒の計算に過ぎない」と感じることで、人間としての価値が否定されたように感じる。
  • 地位の喪失(Loss of Status): 意思決定権限がAIアルゴリズムに移譲されることで、社内政治的なパワーや尊敬を失うことへの恐れ。
  • 自律性の喪失(Loss of Autonomy): 自分の判断ではなく、AIの推奨(レコメンデーション)に従って行動することを強いられ、「機械の手先」になったような屈辱感を感じる。

この脅威(Threat)は、従業員の心の中で「認知的評価(Cognitive Appraisal)」というプロセスを経て、具体的な行動(回避や抵抗)へと変換される。

4.2 思考ツールとしての「認知的クラフティング(Cognitive Crafting)

Mirbabaieらの研究およびCostantini (2022)などのジョブ・クラフティング研究から導き出される解決策は、物理的な業務内容を変えること以上に、業務に対する「認知(捉え方)」を変えることの重要性を示唆している。

4.2.1 接近と回避の力学(Approach vs. Avoidance)

アイデンティティ脅威に直面した時、人は無意識に以下の2つの対処戦略のいずれかをとる。

対処戦略心理的状態行動パターン(例)長期的な結果
回避思考 (Avoidance)防衛的、不安、拒絶・AIツールの導入を先延ばしにする
・AIのミスを過剰に指摘して信用を落とす
・従来のやり方に固執する
スキル陳腐化: 学習機会を逃し、実際にAIに代替されるリスクが高まる。
孤立: 変化する組織内で「抵抗勢力」と見なされる。
接近思考 (Approach)好奇心、挑戦、受容・「AIに何ができて何ができないか」を実験する
・AIを「部下」や「パートナー」と擬人化して役割分担を考える
・AIが苦手な「人間的領域」に注力する
拡張: AIをツールとして使いこなし、生産性を上げる。
再定義: 「計算する人」から「AIを監督する人」へとアイデンティティを進化させる。

この理論のマインドセットは、「回避」から「接近」へとスイッチさせることにある。そのための具体的な技法が「認知的クラフティング」である。これは、事実(AIの導入)を変えずに、意味づけ(解釈)を変える技術である 。

  • Before (Avoidance): 「AIは私の仕事を奪う敵だ。」(Zero-sum game)
  • After (Approach): 「AIは私が面倒な事務作業から解放され、本来やりたかった創造的な仕事に集中するための、強力な舞台装置だ。」(Positive-sum game)

4.3 最新の研究:ナラティブ・アイデンティティの書き換え

心理学における「ナラティブ・アイデンティティ(Narrative Identity)」の理論によれば、人は自身の過去・現在・未来を一貫した物語として語ることで、自己同一性を保っている。AIの登場は、この物語に予期せぬ「断絶」をもたらすイベントである。

  • 危機の物語: 「私は熟練の職人だったが、機械に取って代わられた悲劇の主人公」という物語を採用すれば、その後のキャリアは衰退の物語となる。
  • 変革の物語: 「私は技術革新という試練に直面したが、それを乗り越えて新しい役割を獲得した変革の主人公」という物語を採用すれば、AIは「敵役(Villain)」から「助っ人(Sidekick)」へと役割が変わる。

Mirbabaieらの研究は、AIとの共存に成功している従業員は、単にITスキルが高いだけでなく、この「物語の編集能力(Sensemaking capability)」が高いことを示唆している。つまり、ナラティブの「解釈力」こそが、最強の生存スキルとなるのである。


5. 応用:ジョブ・クラフティングのためのロジック構築

3つの理論(Social Chronology Framework, Structure/Agency, AI Identity Threat)を統合し、セルフワークを中心として最新のキャリア理論を学ぶ全3回の講座を体験講座として企画した。

体験講座:『AI時代のナラティブ・キャリア論』全3回

本シリーズは、受講者を「現状の混乱(Chaos)」から「理論による整理(Order)」を経て、「新たな物語の創造(Creation)」へと導く3部構成の講座です。

第1回:【視座】キャリアの「地図」を広げる 〜個人・空間・時間〜

  • 目的: Gunzらの枠組みを用いて、漠然とした不安を「分析可能な要素」に分解する。
  • Key Message: 「あなたの悩みは、あなたのせいではなく、地図(空間)の変化かもしれない。」
  • Thinking Tool: 「3次元マッピング(Ontic-Spatial-Temporal Map)」。自分の悩みを3つの箱に仕分けることで、問題の所在(自己変革が必要なのか、環境選定が必要なのか)を特定する。

第2回:【葛藤】「構造」と「主体性」のダンス 〜AIによる揺らぎ〜

  • 目的: Schneidhoferらの理論を用いて、AIという巨大な「構造」に対する健全な向き合い方を獲得する。
  • Key Message: 「AIに『選ばされる』のではなく、AIという舞台で『踊る』主体性を取り戻せ。」
  • Thinking Tool: 「構造の利用(Agency within Structure)」。AIを脅威としてではなく、自分の演技(仕事)を拡張するためのリソース(舞台装置)として客観視する視座。

第3回:【物語】意味の再構築とクラフティング 〜新たな脚本を書く〜

Thinking Tool: 「認知的クラフティング(Cognitive Crafting)」。仕事の意味づけを書き換えるための具体的なワーク(接近思考への転換)を提供し、明日からの行動変容を促す。以下に、本講座の「キラーフレーズ」と、その背後にあるロジックを提示する。

目的: Mirbabaieらの知見に基づき、心理的な脅威を克服し、具体的な行動(接近思考)へと繋げる。

📚キャリアとは、自分と環境の相互作用によって編まれる、終わりのない物語である。

「AIに代替される」恐怖から、「AIを共演者にする」自信へ

急速なAIの進化により、自分の専門性や自律性が脅かされると感じていませんか? それは「AIアイデンティティ脅威」と呼ばれる心理的反応かもしれません 。

この講座では、キャリアを単なる職歴ではなく「構造(環境)」と「主体性(意志)」のダンスとして捉え直します

  • 現状把握: キャリアの「地図」を広げて現在地を知る
  • 視点転換: AIを「敵」ではなく「舞台装置」として定義する
  • 物語再構築: 認知的クラフティングで「未来の脚本」を書く

不安を構造化し、明日からの働き方を主体的に変えるための「思考のOS」をアップデートしましょう。

ジョブ・クラフティング|キャリア構築のヒント

【理論 ジョブ・クラフティング】「ただの研修」ではない。生存のための理論武装としてのリスキリング

投稿者

  • 文化人類学者|社会人類学・アクターネットワーク理論

    • 早稲田大学大学院博士課程に在籍中、インドネシアとシンガポールへの留学を経て、文化・社会人類学の研究手法を体得。現在もフィールドワークを重視する研究者として活動。
    • 研究テーマは、東南アジアの国際移民研究から、BBCやNHKのドキュメンタリー番組制作過程の民族誌的研究、沖縄・韓国・マレーシアの民俗服飾の比較研究へと展開。近年は、伝統染織「読谷山花織」を事例に、市場的価値と社会的価値が織りなすネットワークの中で、いかに持続可能な発展が実現されるのかを追究している。
    • 特筆すべきは、コロナ禍でキャリアコンサルタント国家資格を取得した点。人類学者としての視座とキャリア支援の実践知を統合し、沖縄の伝統産業における技能継承や後継者育成の研究にその知見を活かしている。学問と社会をつなぐ姿勢は、リベラーツの理念にも通底する。
    • 主な著書:
      『シンガポール:多文化社会を目指す都市国家』
      『戦後アジアにおける日本人団体』
      『イスラーム事典』

     

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