いささん先生(山崎 功|国際関係学者)
国際関係学・日本とアジア関係史
出来事の裏側に隠された「生身の歴史」を掘り起こす歴史探偵
山崎功|国際関係学者
早稲田大学大学院で東南アジア史を修め、オランダの自由大学で研究を深めたいささん先生は、東南アジア現代史と日本=東南アジア関係史を専門とする研究者である。先生の研究は、公文書館に眠る外交文書だけでなく、映画、流行歌、絵葉書、チラシといった大衆文化の表象から、歴史の深層に潜む人々の思惑やメッセージを読み解こうとする点に独自性がある。

先生の研究の中核をなすのは、インドネシア独立史である。代表作『スカルノ インドネシア「建国の父」と日本』は、インドネシア独立の指導者スカルノと日本との複雑な関係を、占領期の軍政から独立革命に至る過程において詳細に分析したものである。リンガルジャティ協定をめぐる研究や、ボルネオ・スマトラの石油資源と日本軍政に関する考察は、日本の南方政策が東南アジアの近代史に刻んだ光と影を、多角的な視点から明らかにしている。
さらに注目すべきは、「地方」から国際関係史を問い直す視座である。九州・佐賀という地域に焦点を当て、郷土の企業や人物がどのようにアジアと関わり、国策に協調あるいは抵抗したかを解明する研究は、中央集権的な歴史叙述では見過ごされがちな地域の主体性を浮かび上がらせる。久留米のゴム工業が青島やジャワへ進出した過程や、副島八十六の日印協会での活動などを通じて、先生は近代日本とアジアの結びつきが、実は地域社会の多様なアクターによって織りなされていたことを示している。
先生の仕事が教えてくれるのは、歴史が政治家や外交官だけのものではなく、普通の人々の喜びや怒り、屈託が投影されたものであるという視点である。郷土文化とナショナリズム、大衆文化と政治的アイデンティティの交錯を丹念に追う姿勢は、アジアの歴史を生きた人間の営みとして理解する道を開いている。
山崎先生のおもな著書の紹介

「世界を知る鍵は、足元の郷土にあり」。本書は佐賀・九州というローカルな視点から、近代日本の「南進」の歴史と現代東南アジアの政治課題を接続します。明治期の思想やメディアが作った「南洋」像を解体し、現代の格差やナショナリズムまでを論じる構成は、歴史・政治・社会を横断する学びそのもの。固定観念を排し、多角的な視点でアジアと日本のアイデンティティを再考したい方におすすめの一冊です。

アジア太平洋戦争期を多角的に捉える論集。山崎先生は「資源外交と南進政策・南方軍政」を担当し、日本がなぜ「南」を目指したのか、その核心にある資源獲得の論理と、占領地統治の実態を解き明かします。「共栄圏」の理念と収奪の現実、その構造的矛盾とは。戦争を精神論だけでなく、資源と統治という物質的・制度的側面から冷静に見つめ直す、リベラルアーツに相応しい論考です。

欧米の植民地学や戦前の南方史研究を乗り越え、現代のアカデミズムが到達した東南アジア史の最前線。その中で山崎先生は「インドネシア――未完の民族革命」を論じます。独立はゴールではなく、なぜ「未完」なのか。過去の研究蓄積を踏まえつつ、地域独自の論理で歴史を捉え直す本論考は、歴史を単なる年表としてではなく、現在へ続く動的なプロセスとして思考するリベラーツの学びに相応しい一編です。
